タイトルの『ミツバチにとっての良い環境』というのは、養蜂をするうえで養蜂家にとって良いという意味ではない。あくまでミツバチたちにとってのいい環境のことだ。
はちみつをいただく人間からするとつい勘違いしてしまいがちだが、ミツバチが蜜を集める行動というのは、一貫して彼らミツバチの群れが生きていくための活動であり、種をつなぐためのもの。
だから、僕らが養蜂でやるべきことはミツバチが生きやすい環境づくりを手伝って、効率 的に採蜜活動をしてもらうこと。
そのために、どのような場所に巣箱を設置するのが最適なのか、どのような観察が必要かを考えたい。
と言いつつ、まだ僕も経験が浅いしベテラン養蜂家でも「なぜこんな行動を?」というところが時々出てくるので、つねに様子をみながら関わっていくしかない。
奥が深すぎて心配になるのが養蜂…。
ミツバチが好む環境とは
ざっとあげるとこんな感じ。
水辺が巣箱の近くにあること
活動がもっとも活発になる暖かい時期や、巣箱のなかが暑くなる夏にはヒトと同じく温度を下げてやる必要がある。
彼らミツバチは水を運んで巣にまいて、羽で風をおくり、その気化熱で温度を下げるので水が近くにあることはとても重要だ。
そのとき農薬などで汚染された水があった場合、それを利用することでミツバチもはちみつをいただくヒトも、その影響をうけることになるので注意が必要。
最近の研究では千葉工業大学(亀田豊・准教授)の研究チームによると、東北から沖縄の9都県で採取されたはちみつの6割超で、基準値をうわまわる農薬が検出されている。
※参考記事:『蜂蜜やミツバチ、広がる農薬汚染 9都県で検出』
『ミツバチの大量死や失踪…影響疑われる農薬、なぜ禁止しない? 現場に危機感 使用避け巣が増えた事例も』
すぐに健康に影響がでるものではないとのことだが、小さなミツバチにとっては深刻だ。
とくにいまだに使われつづけているネオニコチノイド系農薬は、過去に大量消失した原因となったもの。
そうしたものを含まない水辺の存在は重要だ。
採蜜できる花(蜜源)がたくさんあること
蜜がたくさんとれる花が行動範囲内にたくさんあるかはとても重要。
前に書いた記事『餓死する蜂たち』のとおり、エサとなるはちみつがなくなれば、巣ごと全滅する可能性もある。
また、花があってもミツバチが好まない、あるいは蜜をとれない花もあるので植物の知識も必要になってくる。
蜜と同様に、花粉がとれる植物の存在も欠かせない。
ミツバチが育児をするのに大切な栄養素、タンパク源となるからだ。
スズメバチなどの害虫・害獣への対策
スズメバチをはじめとして、クモやカエル、ムカデといった天敵となる生物は多い。
しかし全滅させるほど圧倒的な組織力をもつスズメバチにはとくに注意すべき。
真夏から秋にかけて活発に行動するスズメバチにはとくに注意すること。
巣門前にスズメバチのトラップを仕掛けたり、一匹捕まえては粘着シートに貼り付けたり、こまめに見回り監視が必要になる。
これが僕にとっていちばん恐怖だ。巣箱を観察していて低音の羽音とオレンジ色と黒のシマシマを見るたびに胃袋がしめつけられる。
前におでこを刺されたときのプチプチ音が耳のおくによみがえる。
詳しくはこちら『オオスズメバチの親方』の記事をどうぞ。
巣箱の設置場所
日当たりがよくて南から東にひらけた平地がいい。
木が生い茂る森のなかなどは、太陽の位置で花のありかを仲間に伝えるミツバチにとってはその伝達がうまくいかなくなる可能性があるので避けたほうがいいようだ。
ジメジメした湿気の多い場所は、前述したようにムカデやカエルなどの害虫が多く、巣箱のなかの湿度が上がりすぎてスムシやダニが住みやすい環境となり、病気になる可能性が高くなる。
自宅の庭など、街中での飼育は不可能でないものの、いい環境とは言えない。
ミツバチもフンをする。困ったことにどういうわけか好んで白いところに黄色いフンをするので御近所さんに迷惑がかかるし、とつぜん分蜂してしまうことによって駆除されてしまう可能性があって、ミツバチたちにとっても不幸だ。
最後に
そのほかにもやるべきことはたくさんある。
とくに近年大型化する台風への対策をしっかり行わないと、巣箱もろともミツバチたちは大きなダメージをうける。
短い生涯を健気に懸命に生きる姿をみていると、はちみつを分けてくれるミツバチたちにできることは、いい環境を与えてあげることを考え続けるのが養蜂家の役割なのだと思うのです。
これはネズミ捕り用の粘着シートですが、スズメバチを一匹ほど生け捕りにして貼り付けておくと、助けにきたスズメバチもどんどんくっついてきます。
蜂をターゲットにしている時のスズメバチは人を襲うことはありませんが、それ以外でこの方法は危ないのでやめましょう。